花間集 訳注解説 (443)回目《孫光憲巻八47漁歌子二首其一》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ10698
花間集 訳注解説 (443)回目《孫光憲巻八47漁歌子二首其一》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ10698
(半隠のつもりで気ままに、漁夫をしていて帰らなくなってしまった、漁師の歌う舟歌を聞きながら、この夜も、釣り糸を垂れ、詞を詠う)
草草はのびて芊芊と茂ってきた、浪は岸辺を溢れんばかりに漾漾と打ち寄せる。湖の岸辺には草は伸びて若草色は連綿と続き、水面は波立って漲っている。
岸辺には蓼がしげる中を風がぬけてゆく、湊には船が停泊して、水内際に色づいた楓の木が水面に映す、やがて水平線から満月が昇り始める。
月が昇るのを待って漁師が「舷歌」歌いだす、歌が終われば続いて詠いだし、遠く望んで詠うのである。船の水きり音や櫂のきしむ音が歌に和せて舟は何処の港に向かっていくのか歌で知るのだ。
舟歌に合わせたように、鵲が叫ぶ、黃の鵲が啼けば、近しい親族に会えるというけれど、叫んでいるからすぐ会えるとはいうものの、白鷗はもう岸辺で眠ってしまったのだろうし、我が家は遠く、廣く、疎ましくなってしまったことは益々隠遁者となってゆく、誰が似てしまったのだろうか
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| 花間集 巻八 | |
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巻八42 楊柳枝四首其一
閶門風暖落花乾,飛遍江城江城雪不寒。獨有晚來臨水驛,閑人多凭赤欄干。
巻八43 楊柳枝四首其二
有池有榭即濛濛,浸潤飜成長養功。恰似有人長點檢,着行排立向春風。
巻八44 楊柳枝四首其三
根柢雖然傍濁河,無妨終日近笙歌。驂驂金帶誰堪比,還共黃鶯不校多。
巻八45 楊柳枝四首其四
萬株枯槁怨亡隋,似弔吳臺各自垂。好是淮陰明月裏,酒樓橫笛不勝吹。
巻八46 望梅花一首
枝開與短牆平,見雪萼紅跗相映,引起誰人邊塞情。
簾外欲三更,吹斷離愁月正明,空聽隔江聲。
巻八47 漁歌子二首其一
草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。
扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。
巻八48 漁歌子二首其二
泛流螢,明又滅,夜涼水冷東灣闊。風浩浩,笛寥寥,萬頃金波澄澈。
杜若洲,香郁烈,一聲宿鴈霜時節。經霅水,過松江,盡屬濃家日月。
巻八49 菩薩蠻二首 其一
羅裾薄薄秋波染,眉間畫時山兩點。相見綺筵時,深情暗共知。
翠翹雲鬢動,斂態彈金鳳。宴罷入蘭房,邀入解珮璫。
巻八50 菩薩蠻二首 其二
羅衣隱約金泥畫,玳筵一曲當秋夜。聲戰覷人嬌,雲鬟裊翠翹。
酒醺紅玉輭,眉翠秋山遠。繡幌麝煙沉,誰人知兩心。
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| 花間集 教坊曲《漁歌子二首》孫光憲 |
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花間集には、教坊曲『漁歌子』は八首所収されている。
花間集 教坊曲 《漁歌子》 八首 | |
顧夐 | 《巻七31漁歌子一首》 曉風清,幽沼綠,倚欄凝望珍禽浴。畫簾垂,翠屏曲,滿袖荷香馥郁。好攄懷,堪寓目,身閑心靜平生足。酒盃深,光影促,名利無心較逐。 |
孫光憲 | 《巻八47漁歌子二首其一》 草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。 |
孫光憲 | 《巻八48漁歌子二首其二》 泛流螢,明又滅,夜涼水冷東灣闊。風浩浩,笛寥寥,萬頃金波澄澈。杜若洲,香郁烈,一聲宿鴈霜時節。經霅水,過松江,盡屬濃家日月。 |
魏承班 | 《巻九13漁歌子》 柳如眉,雲似髮。蛟綃霧縠籠香雪。夢魂驚,鐘漏歇,䆫外曉鶯殘月。幾多情,無處說,落花飛絮清明節。少年郎,容易別,一去音書斷絕。 |
李珣 | 《巻十18漁歌子四首其一》 楚山青,湘水淥,春風澹蕩看不足。草芊芊,花簇簇,漁艇棹歌相續。信浮沉,無管束,釣迴乘月歸灣曲。酒盈罇,雲滿屋,不見人間榮辱。 |
李珣 | 《巻十19漁歌子四首其二》 荻花秋,瀟湘夜,橘洲佳景如屏畫。碧煙中,明月下,小艇垂綸初罷。水為鄉,篷作舍,魚羹稻飯常飡也。酒盈杯,書滿架,名利不將心掛。 |
李珣 | 《巻十20漁歌子四首其三》 柳垂絲,花滿樹,鶯啼楚岸春山暮。棹輕舟,出深浦,緩唱漁歌歸去。罷垂綸,還酌醑,孤村遙指雲遮處。下長汀,臨淺渡,驚起一行沙鷺。 |
李珣 | 《巻十21漁歌子四首其四》 九疑山,三湘水,蘆花時節秋風起。水雲間,山月裏,棹月穿雲遊戲。皷清琴,傾淥蟻,扁舟自得逍遙志。任東西,無定止,不議人間醒醉。 |
唐・張志和 《漁 子 四首》
其一 西塞山前白鷺飛,桃花流水鱖魚肥。青箬笠,綠簑衣,斜風細雨不須歸。
○●○○●●○ ○○○●△○○ ○●● ●?△ ○△●●△○○
其二 釣臺漁夫褐為裘,兩兩三三蚱蜢舟。能縱棹,慣乘流,長江白浪不曾憂。
其三 霅溪灣裡釣漁翁,蚱蜢為家西復東,江上雪,浦邊風,笑著荷衣不歎窮。
其四 蟹舍主人歡,菰飯篿羹亦共餐,楓葉落,荻花乾,宿醉漁舟不覺寒。
漁歌子二首其一
(半隠のつもりで気ままに、漁夫をしていて帰らなくなってしまった、漁師の歌う舟歌を聞きながら、この夜も、釣り糸を垂れ、詞を詠う)
草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。
草草はのびて芊芊と茂ってきた、浪は岸辺を溢れんばかりに漾漾と打ち寄せる。湖の岸辺には草は伸びて若草色は連綿と続き、水面は波立って漲っている。
沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。
岸辺には蓼がしげる中を風がぬけてゆく、湊には船が停泊して、水内際に色づいた楓の木が水面に映す、やがて水平線から満月が昇り始める。
扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。
月が昇るのを待って漁師が「舷歌」歌いだす、歌が終われば続いて詠いだし、遠く望んで詠うのである。船の水きり音や櫂のきしむ音が歌に和せて舟は何処の港に向かっていくのか歌で知るのだ。
黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。
舟歌に合わせたように、鵲が叫ぶ、黃の鵲が啼けば、近しい親族に会えるというけれど、叫んでいるからすぐ会えるとはいうものの、白鷗はもう岸辺で眠ってしまったのだろうし、我が家は遠く、廣く、疎ましくなってしまったことは益々隠遁者となってゆく、誰が似てしまったのだろうか
(漁歌子二首其の一)
草 芊芊,波 漾漾,湖邊 艸色 連波漲る。
蓼岸【りょうがん】に沿い,楓汀に泊る,天の際 玉輪 初めて上る。
舷歌に扣き,聯とし極まりて望む,槳聲 伊に軋き 何に向うかを知る。
黃鵲は叫び,白鷗は眠る,誰ぞ似る 儂家 疏曠するを。
漁歌子二首其二
泛流螢,明又滅,夜涼水冷東灣闊。
風浩浩,笛寥寥,萬頃金波澄澈。
杜若洲,香郁烈,一聲宿鴈霜時節。
經霅水,過松江,盡屬濃家日月。
『漁歌子二首其一』 現代語訳と訳註
(本文)
漁歌子二首其一
草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。
沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。
扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。
黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。
(下し文)
(漁歌子二首其の一)
草 芊芊,波 漾漾,湖邊 艸色 連波漲る。
蓼岸【りょうがん】に沿い,楓汀に泊る,天の際 玉輪 初めて上る。
舷歌に扣き,聯とし極まりて望む,槳聲 伊に軋き 何に向うかを知る。
黃鵲は叫び,白鷗は眠る,誰ぞ似る 儂家 疏曠するを。
(現代語訳)
(半隠のつもりで気ままに、漁夫をしていて帰らなくなってしまった、漁師の歌う舟歌を聞きながら、この夜も、釣り糸を垂れ、詞を詠う)
草草はのびて芊芊と茂ってきた、浪は岸辺を溢れんばかりに漾漾と打ち寄せる。湖の岸辺には草は伸びて若草色は連綿と続き、水面は波立って漲っている。
岸辺には蓼がしげる中を風がぬけてゆく、湊には船が停泊して、水内際に色づいた楓の木が水面に映す、やがて水平線から満月が昇り始める。
月が昇るのを待って漁師が「舷歌」歌いだす、歌が終われば続いて詠いだし、遠く望んで詠うのである。船の水きり音や櫂のきしむ音が歌に和せて舟は何処の港に向かっていくのか歌で知るのだ。
舟歌に合わせたように、鵲が叫ぶ、黃の鵲が啼けば、近しい親族に会えるというけれど、叫んでいるからすぐ会えるとはいうものの、白鷗はもう岸辺で眠ってしまったのだろうし、我が家は遠く、廣く、疎ましくなってしまったことは益々隠遁者となってゆく、誰が似てしまったのだろうか
(訳注)
漁歌子二首其一
(半隠のつもりで気ままに、漁夫をしていて帰らなくなってしまった、漁師の歌う舟歌を聞きながら、この夜も、釣り糸を垂れ、詞を詠う)
1 漁歌 若いころの放蕩を改め、風流、興を感じる隠士の生活を詠うものを基本とする。
漁歌子 本来、詩題ではなく形式名(正確には詞に着けられた曲名)だが、唐代に既にあった填詞形式のものを、変化させたもので、填詞の形式に準じてはいるものの、填詞の詞牌ではない。漁歌子など(宋詞以前の)初期のものは本意(詞の本来の意味、詞題の性質)の場合が多い。この作品もそうである。特に、『漁歌子』は、釣りをして暮らすなどの隠逸生活を詠う。中国では伝統的に、漁師や樵人は半仙の雰囲気を漂わせたものとして捉えられている。(『漁父』も、『漁歌子』の同調異名(形式は同じで、名称が異なるだけのもの))。
花間集には、教坊曲『漁歌子』は八首所収されている。双調五十字、前後二十五字六句四仄韻、3❸❼3❸❻/3❸❼3❸❻の詞形をとる。
漁歌子二首其一
草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。
沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。
扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。
黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。
●△△ ○●● ○○●●○○△
○●● ●○△ ○●●○○●
●○○ ○●△ ●○○●○△●
○●● ●○○ ○●○○△●
草芊芊,波漾漾,湖邊艸色連波漲。
草草はのびて芊芊と茂ってきた、浪は岸辺を溢れんばかりに漾漾と打ち寄せる。湖の岸辺には草は伸びて若草色は連綿と続き、水面は波立って漲っている。
2 芊 芊绵(芊眠)《書》草木の茂るさま.
3 漾漾 漾とは。意味や日本語訳。[動]こぼれる,溢れる酒漾出来酒が溢れる.脸上漾出笑容笑顔がこぼれる.水がゆらゆら揺れる,たゆとう荡漾同前.
沿蓼岸,泊楓汀,天際玉輪初上。
岸辺には蓼がしげる中を風がぬけてゆく、湊には船が停泊して、水内際に色づいた楓の木が水面に映す、やがて水平線から満月が昇り始める。
4 泊楓汀 《夜泊楓江》「月落烏啼霜滿天,江楓漁父對愁眠。 姑蘇城外寒山寺,夜半鍾聲到客船。」(月落 烏啼き霜天に滿つ,江楓 漁父 愁眠に對す。 姑蘇城外の寒山寺,夜半鍾聲 客船に到る。)張継「楓橋夜泊」、『中興間氣集』では「夜泊松江」に作る。
5 汀 海・湖などの,波が打ち寄せる所。波うちぎわ。みぎわ。
6 玉輪【ぎょくりん】月の異称。
7 蓼岸 岸辺には蓼がしげる。風に揺れることをイメージさせる。
孫光憲『浣溪沙九首其一』
蓼岸風多橘柚香,江邊一望楚天長,片帆煙際閃孤光。
目送征鴻飛杳杳,思隨流水去茫茫,蘭紅波碧憶瀟湘。
(浣溪沙九首 其の一)
蓼岸【りょうがん】風 橘柚の香多くし,江邊 一望 楚天長しい,片帆 煙際に 孤光 閃く。
目【もく】せば 征鴻を送れば 飛びて杳杳たり,思いは流水に隨い去りて茫茫たり,蘭は紅いに 波は碧く 瀟湘を憶う。
(秋には帰るといって旅立った人を何度も秋を迎えたが帰ってこない。雁が見えなくなるように、川が流れ去るように忘れていくことになるのか、もう死んでしまったのなら、瀟湘の女神にもあこがれる)
岸辺には蓼がしげる中を風がぬけると橘や柚子の香りを運んでくる、大江のほとりから一望すると楚の秋の空ははるかとおくまでつづく、一片の帆影を浮かべて霞む果てには風雨を呼ぶ閃光が一つきらめく。
女の眼は遠く飛び行く雁を消えて飛び去るまで追いかける、遠い先の帰ってこない男への思いは長江の流れとともに忘れ去ってしまう、蘭の花は紅色濃く、波は碧く瀟湘の慕情を偲ばせる。
扣舷歌,聯極望,槳聲伊軋知何向。
月が昇るのを待って漁師が「舷歌」歌いだす、歌が終われば続いて詠いだし、遠く望んで詠うのである。船の水きり音や櫂のきしむ音が歌に和せて舟は何処の港に向かっていくのか歌で知るのだ。
8 扣える【ひかえる・控える】 1㋐用事や順番に備えて、すぐ近くの場所にいて待つ。待機する。㋑目立たないようにしてそばにいる。㋒空間的・時間的に迫っている。近くに位置する。また、近い将来に予定される。2・㋐度を越さないように、分量・度数などを少なめにおさえる。節制する。㋑自制や配慮をして、それをやめておく。見合わせる。㋒空間的・時間的にすぐ近くにある。近い所に持つ。あまり時を置かないで予定している。㋓忘れないように、また、念のため書きとめておく。㋔衣服などを、おさえつかんで、行かせないようにする。引きとめる。㋕引く。引っぱる。
9 舷歌 漁父が船端を叩きながらうたった舟歌。
韓愈『湘中』
猿愁魚踊水翻波、自古流傳是汨羅。
蘋藻満盤無塵奠、空聞漁父叩舷歌。
(湘中)
猿愁え魚踊って水波を翻【ひるがえ】し、古【いにし】え自【よ】り流伝す走れ汨羅【べきら】たりと。
頻藻【ひんそう】盤に満つるも奠【そな】うる処無く、空しく聞く漁父の舷【ふなばた】を叩いて歌うを
猿は悲しげな鳴き声をあげ、魚ははねて、川の水は波をわきたたせている。昔からの言い伝えによれば、ここが旧羅なのだという。
水草は皿いっぱいに盛ったが、さてどこにそなえて屈原の霊を祭ったものだろう。屈原に対して漁父が船端を叩きながらうたった舟歌がいまはむなしく聞こえてくる。
10 槳聲 船の水きり音。
黃鵲叫,白鷗眠,誰似儂家疏曠。
舟歌に合わせたように、鵲が叫ぶ、黃の鵲が啼けば、近しい親族に会えるというけれど、叫んでいるからすぐ会えるとはいうものの、白鷗はもう岸辺で眠ってしまったのだろうし、我が家は遠く、廣く、疎ましくなってしまったことは益々隠遁者となってゆく、誰が似てしまったのだろうか
11 誰似 隠遁の生活に慣れて、半隠であったものがますますこの生活に浸ってゆく、これまでいろんな隠棲する詩人がいたが、誰に似ているのだろうかというほどの意。
12 疏曠 1 水路を分けて通す。「疏水・疏通」2 関係が分け離れる。うとくなる。「疏遠」3 粗末な。「疏食(そし)」4 事柄の筋を分けていちいち説明する。