花間集 訳注解説 (437)回目《孫光憲巻八41思越人二首 其二》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ10656
花間集 訳注解説 (437)回目《孫光憲巻八41思越人二首 其二》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ10656
(西施の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。とくに、玉人、月明、溪橋、經春、秋風、紅蘭、綠蕙とすべて西施・宮女に関連したもので侘しさ、愁いを詠う。)
西施が見留められた「採蓮」の蓮は枯れ、館娃宮の樹木は老木となっている。長い砂浜が続き華やかだった庭園も見る人もなく崩れ廃墟となってひっそりとしている。
栄華を極めた煌びやかに耀く白く艶やかな肌の美しい妃嬪やその頃の容を思い浮かべてみると何処も空しい所ばかりである。夜が訪れて月明かりに照らされた谷間の端を一人で渡ってみる。
春を過ぎて順調に成長した芳香草が秋風によってはじめて萎れ、枯れ始めるのを見ると秋の気配を感じるし、赤く咲いていた蘭の花も、緑の香草も枯れてくることを思うと栄枯盛衰を憂えてしまうのだ。
風は片側に吹きわたり、草木が揺れる波を片側に寄せて行くのでなおさら心が痛むこの場所である。西施の魂はもう消えてなくなっているはずなのに、見るものすべてを西施と関連付けてしまうので見るのをやめねばならないのだ。
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| 花間集 巻八 孫光憲 (2) | |
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巻八37上行盃二首 其一
草草離亭鞍馬,從遠道,此地分衿,燕宋秦吳千萬里。無辭一醉。野棠開,江艸濕。佇立,沾泣,征騎駸駸。
巻八38上行盃二首 其二
離棹逡巡欲動,臨極浦,故人相送,去住心情知不共。金舡滿捧。綺羅愁,絲管咽。迴別,帆影滅,江浪如雪。
巻八39謁金門一首
留不得!留得也應無益。白紵春衫如雪色,揚州初去日。輕別離,甘拋擲,江上滿帆風疾。卻羨彩鴛三十六,孤鸞還一隻。
巻八40思越人二首 其一
古臺平,芳艸遠,館娃宮外春深。翠黛空留千載恨,教人何處相尋。綺羅無復當時事,露花點滴香淚。惆悵遙天橫淥水,鴛鴦對對飛起。
巻八41思越人二首 其二
渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。想像玉人空處所,月明獨上溪橋。經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。一片風流傷心地,魂銷目斷西子。
花間集 教坊曲『思越人』四首 | |
張泌 | 巻四45思越人 鷰雙飛,鶯百囀,越波堤下長橋。鬬鈿花筐金匣,恰舞衣羅薄纖腰。東風澹蕩慵無力,黛眉愁聚春碧。滿地落花無消息,月明腸斷空憶。 |
孫光憲 | 巻八40思越人二首其一 古臺平,芳艸遠,館娃宮外春深。翠黛空留千載恨,教人何處相尋。綺羅無復當時事,露花點滴香淚。惆悵遙天橫淥水,鴛鴦對對飛起。 |
孫光憲 | 巻八41思越人二首其二 渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。想像玉人空處所,月明獨上溪橋。經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。一片風流傷心地,魂銷目斷西子。 |
鹿虔扆 | 《巻九18思越人》 翠屏欹,銀燭背,漏殘清夜迢迢。雙帶繡窠盤錦薦,淚浸花暗香銷。珊瑚枕膩鴉鬟亂,玉纖慵整雲散。若是適來新夢見,離腸爭不千斷。 |
思越人二首 其一
(呉の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。)
古臺平,芳艸遠,館娃宮外春深。
呉王の夫差が西施のために築き遊宴を開いた紫石山の高台はいま平地となり、草は伸びて遠くにまで連なり、霊岩山の西施の居所の館娃官の外にも、春は深くなっている。
翠黛空留千載恨,教人何處相尋。
この地の柳の葉には、翠黛美しき西施が空しく千載の恨みを留めている、しかし、その人もはやどこに尋ねたらあえるのか、尋ね求めるすべはないのだ。
綺羅無復當時事,露花點滴香淚。
越の名産である美しい綺羅の衣裳まとっていた当時の栄華は既にここにはないが、朝露のおける花は香りを含んだ涙を滴らしていることでその時のことを感じるのである。
惆悵遙天橫淥水,鴛鴦對對飛起。
ここに立てば、歎き悲しみをさそう、空の果てまで緑水が横たわり続く、その水に鴛鴦の番が浮かび、飛び立つときにも番になっている景色で昔を呼び起こす。
(越の人を思う 二首 其の一)
古台 平らかに、芳草 遠く、館娃官の外 春 深くす。
翠黛 空しく留む 千載の恨み、人をして何処にか相い尋ねしむ。
綺羅 復た当時の事 無く、露花 香涙を点滴す。
惆悵す 遙天 淥水 横たわり、鴛鴦 対対として飛び起つ。
思越人二首 其二
(西施の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。とくに、玉人、月明、溪橋、經春、秋風、紅蘭、綠蕙とすべて西施・宮女に関連したもので侘しさ、愁いを詠う。)
渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。
西施が見留められた「採蓮」の蓮は枯れ、館娃宮の樹木は老木となっている。長い砂浜が続き華やかだった庭園も見る人もなく崩れ廃墟となってひっそりとしている。
想像玉人空處所,月明獨上溪橋。
栄華を極めた煌びやかに耀く白く艶やかな肌の美しい妃嬪やその頃の容を思い浮かべてみると何処も空しい所ばかりである。夜が訪れて月明かりに照らされた谷間の端を一人で渡ってみる。
經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。
春を過ぎて順調に成長した芳香草が秋風によってはじめて萎れ、枯れ始めるのを見ると秋の気配を感じるし、赤く咲いていた蘭の花も、緑の香草も枯れてくることを思うと栄枯盛衰を憂えてしまうのだ。
一片風流傷心地,魂銷目斷西子。
風は片側に吹きわたり、草木が揺れる波を片側に寄せて行くのでなおさら心が痛むこの場所である。西施の魂はもう消えてなくなっているはずなのに、見るものすべてを西施と関連付けてしまうので見るのをやめねばならないのだ。
『思越人二首 其二』 現代語訳と訳註
(本文)
思越人二首 其二
渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。
想像玉人空處所,月明獨上溪橋。
經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。
一片風流傷心地,魂銷目斷西子。
(下し文)
思越人二首 其二
渚の蓮は枯れ,宮の樹は老い,長洲 廢苑 蕭條す。
像を想う 玉人 空處の所,月明く 獨り溪橋を上る。
春を經て 初めて敗る 秋風起つに,紅蘭 綠蕙 死を愁う。
一片 風流 傷心の地,魂銷 目は西子を斷つ 。
(現代語訳)
(西施の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。とくに、玉人、月明、溪橋、經春、秋風、紅蘭、綠蕙とすべて西施・宮女に関連したもので侘しさ、愁いを詠う。)
西施が見留められた「採蓮」の蓮は枯れ、館娃宮の樹木は老木となっている。長い砂浜が続き華やかだった庭園も見る人もなく崩れ廃墟となってひっそりとしている。
栄華を極めた煌びやかに耀く白く艶やかな肌の美しい妃嬪やその頃の容を思い浮かべてみると何処も空しい所ばかりである。夜が訪れて月明かりに照らされた谷間の端を一人で渡ってみる。
春を過ぎて順調に成長した芳香草が秋風によってはじめて萎れ、枯れ始めるのを見ると秋の気配を感じるし、赤く咲いていた蘭の花も、緑の香草も枯れてくることを思うと栄枯盛衰を憂えてしまうのだ。
風は片側に吹きわたり、草木が揺れる波を片側に寄せて行くのでなおさら心が痛むこの場所である。西施の魂はもう消えてなくなっているはずなのに、見るものすべてを西施と関連付けてしまうので見るのをやめねばならないのだ。
(訳注)
思越人二首 其二
(西施の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。とくに、緑の水につがいの鴛鴦、緑の水に泛ぶ白い雲は西施の素足を連想させる。)
1.【解説】 西施の遺跡である古蘇臺、館娃宮を訪れての懐古の情を詠う。前段は、呉王の夫差が西施のために築いた姑蘇台は既に今は跡形もなく、ただ平地を残すのみで、辺り一帯は春もすっかり深まり、千載の遺恨を留める西施の姿は、もはやどこにも求めるすべのないことを言う。後段は、当時の栄華を伝えるものは何一つなく、露に濡れた花が西施の涙を思わせる滴をこぼすばかりで、遙か空の彼方の水辺から、番、番になって飛び立つ鴛駕(オシドリ) に悲しみに誘われることを語る。前段第四句の翠黛は西施を指すが、当時、館娃官の跡地一帯には柳が多く植えられていたことから、同時に、西施の美しい眉を思わせる柳の葉、西施は素足で作業していた採蓮の際に見つけられたという。緑の水に白い雲が白い素足ということでこの詩は成り立っている。
館娃宮:〔くゎんあ(い)きゅう;Guan3wa2gong1○○○〕呉王夫差が西施を住まわせた宮殿。蘇州の西、硯石山(霊巌山)上に築かれた。呉の宮殿があった蘇州を指している。白居易は蘇州刺史も任じられている。なお、春秋の呉宮と三国の呉宮とは異なる。
『花間集』には四首所収。孫光憲の作は二首収められている。思越人は鷓鴣天、思佳客、醉梅花の異名があるが、時代がもう少しあとになるもので無関係である。双調五十一字、前段二十五字五句二平韻二仄韻、後段二十六字四句四仄韻で、3❸⑥❼⑥/❼❻7❻の詞形をとる。
思越人二首 其一
古臺平,芳艸遠,館娃宮外春深。
翠黛空留千載恨,教人何處相尋。
綺羅無復當時事,露花點滴香淚。
惆悵遙天橫淥水,鴛鴦對對飛起。
●○○ ○●● ●○○●○△
●●△△○●● △○△●△○
●○○●△○● ●○●●○●
○●○○△●● ○○●●○●
思越人二首 其二も双調五十一字、前段二十五字五句二平韻、後段二十六字四句四仄韻で、33⑥7⑥/❼❻❼❻の詞形をとる。
渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。
想像玉人空處所,月明獨上溪橋。
經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。
一片風流傷心地,魂銷目斷西子。
●△○ ○●● △○●●○○
●●●○△●● ●○●●○○
△○○●○△● ○○●●○●
●●△○△○● ○○●●○●
渚蓮枯,宮樹老,長洲廢苑蕭條。
西施が見留められた「採蓮」の蓮は枯れ、館娃宮の樹木は老木となっている。長い砂浜が続き華やかだった庭園も見る人もなく崩れ廃墟となってひっそりとしている。
11 蕭條 ひっそりとしてもの寂しいさま。詠懐を表現する際に使う語。
杜甫『詠懐古跡 其の二』
搖落深知宋玉悲,風流儒雅亦吾師。
悵望千秋一灑淚,蕭條異代不同時。
江山故宅空文藻,雲雨荒台豈夢思。
最是楚宮俱泯滅,舟人指點到今疑。
『曲江三章 第一章五句』
曲江蕭條秋氣高,菱荷枯折隨風濤。
遊子空嗟垂二毛,白石素沙亦相蕩,哀鴻獨叫求其曹。
曲江三章 章五句(1) 杜甫:kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 52
想像玉人空處所,月明獨上溪橋。
栄華を極めた煌びやかに耀く白く艶やかな肌の美しい妃嬪やその頃の容を思い浮かべてみると何処も空しい所ばかりである。夜が訪れて月明かりに照らされた谷間の端を一人で渡ってみる。
12 想像 この自然体が想像から生じたものである。
13 玉人 離宮に侍る白く艶やかな肌の美しい妃嬪。
溫庭筠《巻一30楊柳枝八首其一》「宜春苑外最長條,閑裊春風伴舞腰。正是玉人腸絕處,一渠春水赤欄橋。」(宜春【ぎしゅん】苑の外最も條を長くす,閒裊【かんじょう】春風 腰に舞うを伴う。正【まさ】に是【こ】れ 玉人 腸斷の處,一つの渠【きょ】春水 赤闌【せきらん】の橋。)
『花間集』全詩訳注解説(改訂)-1溫庭筠35《巻1-35 楊柳枝八首其六》溫庭筠66首巻一35-〈35〉漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ-5372
經春初敗秋風起,紅蘭綠蕙愁死。
春を過ぎて順調に成長した芳香草が秋風によってはじめて萎れ、枯れ始めるのを見ると秋の気配を感じるし、赤く咲いていた蘭の花も、緑の香草も枯れてくることを思うと栄枯盛衰を憂えてしまうのだ。
14 初敗 春を過ぎて順調に成長した芳香草が秋風によってはじめて萎れ、枯れ始める。栄華を誇っていたものが初めて衰退を知る。
15 紅蘭 ベニバナの別称。キク科の越年草、園芸植物、薬用植物。
16 綠蕙 香草のこと。この紅蘭綠蕙は当時華やかだった宮女のことをいう。とりわけ、西施について言うのである。
17 愁死 うれえ悲しんで死ぬこと。
一片風流傷心地,魂銷目斷西子。
風は片側に吹きわたり、草木が揺れる波を片側に寄せて行くのでなおさら心が痛むこの場所である。西施の魂はもう消えてなくなっているはずなのに、見るものすべてを西施と関連付けてしまうので見るのをやめねばならないのだ。
18 魂銷目斷 目斷魂銷.意気消沈して目を伏せること、あるいは目を閉じること。:目斷:元稹《同州刺史謝上表》「臣自離京國,目斷魂銷。」目の力を竭盡して看望するも到かず,因って內心の悲痛をいうものである。多くは別離することが原因して傷心の極みであることを形容するもの。
19 西子 西施。本名は施夷光。中国では西子ともいう。紀元前5世紀、春秋時代末期の浙江省紹興市諸曁県(現在の諸曁市)生まれだと言われている。現代に広く伝わる西施と言う名前は、出身地である苧蘿村に施と言う姓の家族が東西二つの村に住んでいて、彼女は西側の村に住んでいたため、西村の施→西施と呼ばれるようになった。越王勾践が、呉王夫差に、復讐のための策謀として献上した美女たちの中に、西施や鄭旦などがいた。貧しい薪売りの娘として産まれた施夷光は谷川で洗濯をしている姿を見出されたといわれている。策略は見事にはまり、夫差は彼女らに夢中になり、呉国は弱体化し、ついに越に滅ぼされることになる。