花間集 巻一 (27)回目温庭筠 《更漏子六首 【字解集】》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7724
| | | | | | | |
| 2016年11月27日 | の紀頌之5つの校注Blog | | ||||
| ●古代中国の結婚感、女性感,不遇な生き方を詠う 三国時代の三曹の一人、三国時代の「詩神」である曹植の詩六朝謝朓・庾信 後世に多大影響を揚雄・司馬相如・潘岳・王粲.鮑照らの「賦」、現在、李白詩全詩 訳注 | | |||||
| Ⅰ李白詩 | (李白集校注) | 744年-014-#1卷161_5-#1 「太白何蒼蒼」詩(古風五十九首之五)(卷二(一)一○二)Ⅰ漢文委員会kanbuniinkai紀頌之 李白詩集7721 | | |||
| LiveDoo | rBlog | | ||||
| | ||||||
| | ||||||
| | | | | | ||
| | ||||||
| Ⅱ韓昌黎詩集・文集校注 | | |||||
| LiveDoo | rBlog | | ||||
| | ||||||
| | ||||||
| | ||||||
| | | | | | | |
| | ||||||
| Ⅲ 杜詩 | 詳注 | 757年-026 情見乎詞(得舍弟觀書自中都已達江陵) 杜詩詳注 卷一八(四)一六一六 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7652 | | |||
| LiveDoo | rBlog | | ||||
| | ||||||
| | ||||||
| | | | | | | |
| ●これまで分割して掲載した詩を一括して掲載・改訂掲載・特集 不遇であった詩人だがきめの細やかな山水詩をかいている。花間集連載開始。 | | |||||
| Ⅳブログ詩集 | 漢・唐・宋詞 | 花間集 巻一 (27)回目温庭筠 《更漏子六首 【字解集】》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7724 (11/27) | | |||
| fc2 | Blog | 花間集 巻一 (27)回目温庭筠 《更漏子六首 【字解集】》 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7724 (11/27) | | |||
| | | | | | | |
| ●花間集全詩●森鴎外の小説の”魚玄機”詩、芸妓”薛濤”詩。唐から五代詩詞。花間集。玉臺新詠連載開始 | | |||||
| Ⅴ.唐五代詞詩・女性 | ・玉臺新詠 | | ||||
| LiveDoo | rBlog | | ||||
| | ||||||
| | ||||||
| | ||||||
| | ||||||
花間集 巻一 更漏子六首 <温庭筠> 【字解集】
| ||
| 花間集 巻一 更漏子六首 <温庭筠> | |
|
更漏子
(たとえ何だって良い、「謝家池閣」のように愛され続けたいと願っているのに、孤独に夜を過ごす悲しみを詠うもの。)
1. 更漏子 更漏とは夜の時(五更)を知らせる水時計のことをいい、この詩は漏刻五更の時刻が気になるものの気持ちを詠んだもの。この更漏子のように曲名と内容が何らかの関わりを持つものが多い。又、水時計を閨の中に所有できるものはおおよそ、後宮の妃嬪である。
【解説】
前段は、妃嬪が時を告げる水時計の音に夢を破られ、屏風に金泥で描かれた男女の幸せを象徴する鷓鴣を見るにつけ、独り寝の悲しみが増す。
後段末三句は、彼女は眠りに入るべく蝋燭の灯を背け、「私があなたのことを思って長い夢を見ていることなどあなたは知らないでしょう」と、薄情な男に対する恨みの言葉を投げかける。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。
雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
柳絲長,春雨細,花外漏聲迢遞。
驚寒雁,起城烏,畫屏金遮鸪。
香霧薄,透簾幕,惆悵謝家池閣。
紅燭背,繡簾垂,夢長君不知。
詞には詞詞の本意を詠ずるもの(初期の詞詞には比較的そういうものが多い)、およびただ詞調を借るものがある。
2. 花 妓女のいる高楼の庭の花。
3. 漏声 漏は漏刻、水時計。更は夜五分割された時で、夜明けが五更。漏声は水時計の水のしたたる音。したがって、女性が夜を過ごす情景をあらわすもの。
4. 迢遞 はるかなさま。
5. 塞雁 塞辺の雁。ここは塞辺から渡ってくる雁というほどの意であるが、雁は書信を伝える鳥、塞辺の男でさえ手紙を送って来るというのに、この妃嬪には近い所にいるのに、音沙汰が全くない。驚は目を覚ますこと。
6. 城 古城に巣くう烏。塞雁に対して対句として用いて、後宮のなかで讒言や、謀を陰湿に企てる宦官を意味するものと思われる。
7. 畫屏金遮鸪 画屏風に金の鴨鍋が画かれている。夫の帰りを待つ閏婦が画屏風の金の据鶴(多くは雌雄一つがいもの)を見て寂しくおもう無限の意を象徴的に表現
したものであろう。
・以上三句はそれぞれ相違した鳥、本人が來る意志がないという意味をあらわす「寒雁」、恋事の邪魔をする「城烏」、そして座敷に待つ身の女「金遮鸪」と三つ並べて閏情を表現している。
8. 香霧 かぐわしい霧、ここは前段の花外を承けて、花の香のただよう気分を含めているのではないかとおもう。香幕には焚香の煩霧の意もあるが、ここは前段の春雨細から考えて雲霧の意のようである。
9. 惆悵謝家池閣 ・憫帳は憂え悲しむこと。晋の謝道韞の雪のことをよんだ才の故事をいう。小女で詩才あることを褒める場合にこの故事をひく。「還有一年冬天,天空中雪花紛紛揚揚,謝家子弟正圍坐在火爐旁談詩論文。雪越下越大,謝安笑了笑問在座的侄兒侄女們:“白雪紛紛何所似(大雪紛紛而下像什麼樣子)?”
謝朗答道:“撒鹽空中差可擬(像是空中撒下的一把白花花的鹽)。”謝朗是謝安的二哥謝據的兒子,謝安聽了侄兒的回答後,沒置可否,只是默不作聲。
謝道韞隨即答道:“未若柳絮因風起(滿天飛舞的雪花就像春天隨風起舞的柳絮)。”聽了謝道韞的回答,謝安一面鼓掌,一面口中對謝道韞的才華贊賞不已。此後,人們稱有文學才能的女子為“詠絮之才”。」
魚玄機 卷804_46『和人次韻』
喧喧朱紫雜人寰,獨自清吟日色間。
何事玉郎搜藻思,忽將瓊韻扣柴關。
白花發詠慚稱謝,僻巷深居謬學顏。
不用多情欲相見,松蘿高處是前山。
・謝家 第二夫人、愛妾の棲む家。唐の李徳祐が豪邸を築いて謝秋娘を池のほとりの楼閣に住まわせたことによる。比喩する相手が特定される場合は、晋の謝安であったり、謝靈運、謝朓を示す場合もある。
・池閣は、謝霊運の「池塘生春草」にかけて、池堀に春草の生ずるようになったという春情にかける意がある。
紅燭背,繡簾垂,夢長君不知。
紅い蝋燭を背にしたまま、刺繍のすだれをたらしたままだし、夢の中では一緒で長くすごしていることを、あのおかたは知らない。
10. 紅燭背 紅蝋の燭をむこう向きにして暗くする。眠りに就くときにするさま。
更漏子六首其二
(ことしもまた春の終わり、昔の寵愛を思い出すことだけで生きていく儚い妃嬪の情を詠う。)
・更漏子 更漏とは夜の時(五更)を知らせる水時計のことをいい、この詩は漏刻五更の時刻が気になるものの気持ちを詠んだもの。この更漏子のように曲名と内容が何らかの関わりを持つものが多い。又、水時計を閨の中に所有できるものはおおよそ、後宮の妃嬪である。
10. 【解説】
前段は、寵愛を受けて幸せな夜を過ごし、離れがたい春の明け方を描写し、後段では、すぐそこにいるあの方なのに、気持ちを伝えるすべもなく、高殿からの眺望も所詮は悲しみをもたらすものでしかない、今年もまた去年と同じ愁いに囚われ、かつての愛の歓びも夢であっても、それをよりどころに生きていくしかないのだ。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。
雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
星鬥稀,鍾鼓歇,簾外曉莺殘月。
蘭露重,柳風斜,滿庭堆落花。
虛閣上,倚欄望,還似去年惆悵。
春欲暮,思無窮,舊歡如夢中。
11. 星斗 北斗星、または南斗星をもいう。星。星辰(せいしん)。空が白み始め星影がまばらになる。斗は北斗星と南斗星を意味するが、ここでは単に星の意。
12. 鍾鼓 歇時を知らせるかねと太鼓。時を告げる鐘や太鼓の音が尽きる。いよいよ夜明けの近いことを示す。
13. 殘月 十五夜までにはなく陰暦十六日以降、一般的には二十日頃の夜明けに残る月を云う。このような月を詩に詠うは芸妓との別れる場合、人目を忍んで逢瀬を重ねた男女の別れを云う。ここでは、早春が終わり、間もなく盛春に変わってゆく、時の流れをいう。
14. 蘭 香草の一種、古くは沢蘭をさす。菊科に属するもの。ふじはかま。蘭の種類は多くてこの時代のものが果たしてどのようなものであったかは決め難い。ここでは女性自身を示していると思われる。
15. 柳風斜 柳も女性を示す。
16. 落花 女の年齢を重ねた様子を云う。
17. 虚閣 人けのない館。身の孤独を示す。
18. 倚欄望 見る目的がなくなんとなく眺めている様子を云う。
19. 還似去年惆悵 去年「惆悵」の思いをした、今年もまた同じ思いだ。この表現では毎年同じ思いをしているのであろう。抜群の言い回しといえる。
20. 欲暮 暮れようとしている。欲は今にも〜しそうだ、の意。旧歓 昔の歓び。かつて恋人とともに過ごしていた時の愛の歓びを指す。
更漏子六首其三
(寵愛を失っても、生きるためには寵愛を受けている時と同じことを毎日繰り返してすることで生きていくことにした妃賓を詠う)
・更漏子 更漏とは夜の時(五更)を知らせる水時計のことをいい、この詩は漏刻五更の時刻が気になるものの気持ちを詠んだもの。この更漏子のように曲名と内容が何らかの関わりを持つものが多い。又、水時計を閨の中に所有できるものはおおよそ、後宮の妃嬪である。
21.【解説】
前段では、春の花の盛りに男と逢い引きをして愛を誓ったことを回想し、「あの時の言葉を天に尋ねてみるとよい」と、一人、心の中で問いかけている。
後段は、寵愛を失った悲しみを忘れていくことはできない。化粧も、閨の準備も寵愛を受けていた時と同じ、それだけが生きているあかしなのだ。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
金雀釵 紅粉面 花裏暫時相見
知我意 感君憐 此情須問天
香作穗 蠟成淚 還似兩人心意
山枕膩 錦衾寒 覺來更漏殘
22. 金雀 雀をかたどった金のかんざし。曹植『美女篇』「攘袖見素手,皓腕約金環。頭上金爵釵,腰佩翠琅玕。」(袖を攘げて素手を見(あらは)せば、皓腕 金環を約す。頭上には金爵の釵、腰には佩びる翠琅干。)美女が賢い男を得たいと思う気持ちを詠ったもので、若い女性である。
23. 紅粉 紅と白粉。うら若い女性を詠う。
24. 憐 優しさ、情け。
25. 此情須問天 二人が互いに誓い合った愛は天も承知だから天に尋ねてみたらよい、という意味。
26. 香作穂 香が燃え尽きて灰となる。穂は芯の燃えさしが穂の形になるさまをいう。
27. 蠟成淚 蝋燭の蝋の滴りを涙に喩えたもの。
28. 山 女が横になることをあらわす言葉である。
29. 膩 皮膚からにじみ出たあぶら。あか。すべすべする。
30. 衾 薄いかけ布。初めの三言二句は女の横になった艶の雰囲気をあらわしている。
31. 山枕膩 山の形をした枕が髪油に汚れ、てかてか光っている。男が女を裏切って通って来ないため、枕を新しく取り替える気持ちも起こらず、油染みるにまかせたままであることを言う。
32. 錦衾寒 独り寝のため床も寒々としている。ここでの寒は孤独感も含む。
33. 更漏残 水時計の水が尽きかける。夜明け間近であることを言う。更漏は水時計。宮殿に置かれたもの。
更漏子六首其四
(天子が訪れない後宮の妃嬪の愁いの極みをけいけんするも、天子を思い続けて行かないと生きていけない身分であることで生きてゆくことを詠う。)
・更漏子 更漏とは夜の時(五更)を知らせる水時計のことをいい、この詩は漏刻五更の時刻が気になるものの気持ちを詠んだもの。この更漏子のように曲名と内容が何らかの関わりを持つものが多い。又、水時計を閨の中に所有できるものはおおよそ、後宮の妃嬪である。
34. 【解説】
妃嬪は見初められてなったものは100人を超える女たちの中で何人いたかと云えば、わずかな数のものでしかない。大半は高貴な家柄の娘たちが天子の子を授かるという、ワンチャンスに一族の命運をかけて妃嬪にあがっている。したがって花間集の詩の内多くはこの妃嬪たちの詩である。
前段は、寵愛を失っても、節供など大勢の妃嬪たちと一同にして、天子に見えることはある。しかし、天子を思い続けて行かないと生きていけない身分であるから、①眉の化粧を整え、②帳を垂れ、③結同心の佩びをかざり、④夜具に香を薫きしめて天子の到来を待つ、ということを心がけるのはいきていくための最低限の事である。これができないなら、後宮の姥捨て山に送られるか、毒殺されるかであろう。その最低限の身支度しているさまを述べる。
後段は、天子が訪れるとはもう思ってはいない。ただ、「もしかして」と思って生きて行かなければどうしようもないのである。したがって眠れるはずもなく、夜はあたら虚しく明けるのである。「鵲橋 横たわり」は、鵲が天の川に彦星と織姫畠との逢瀬を助けるために橋を架ける伝説を踏まえ、自分には鵲のような出会いがもう一度だけでも寵愛をと願っているのである。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
相見稀,相憶久,眉淺淡煙如柳。
垂翠幕,結同心,侍郎熏繡衾。
城上月,白如雪,蟬鬓美人愁絕。
宮樹暗,鵲橋橫,玉簽初報明。
妃嬪たちは皇帝の妻妾であり、錦衣を着て山海の珍味を食し、ひとたび「誰か之へ」と呼べば、百人の下婦が答える、最も高貴にして最も権勢の高い人々であった。しかし、その運命は逆にまた最も不安定であり、いつでも天国から地獄に堕ち、甚だしい場合には「女禍」の罪名を負わされ犠牲の羊にされた。
○女禍 君主が女色に迷い、国事を誤ったため引き起された禍い。
l 内職、冊封
古来、宮中にはいわゆる「内職」という制度があった。『礼記』「昏義」 に、「古、天子は、后に六宮、三夫人、九嬪、二十七世婦、八十一御妻を立て、以て天下の内治を聴く」とある。唐初の武徳年間(618-626)に、唐は隋の制度を参照して完壁で精密な「内官」制度をつくった。その規定では、皇后一人、その下に四人の妃(貴妃、淑妃、徳妃、賢妃各一人)、以下順位を追って、九嬪(昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛各一人)、捷好九人、美人九人、才人九人、宝林二十七人、御女二十七人、采女二十七人が配置される。上記のそれぞれの女性は官品をもち、合計で122人の多きに達した。皇后だけが正妻であり、その他は名義上はみな「妃嬪」-皇帝の妾とされた。
また、皇太子の東宮にも「内官」があり、太子妃一人、その下に良娣、良媛、承徽、昭訓、奉儀などの品級があった。諸親王の王妃の下にも孺人【じゅじん】等の媵妾【ようしょう】の身分があった。
唐代三百年間に封ぜられた后妃のうち、皇后と地位が比較的高いか、あるいは男子を生んだ妃嬢だけが史書にいささかの痕跡を残した。その他の女性は消え去って名も知れない。『新・旧唐書』「后妃伝」 には、全部で二十六人の皇后、十人の妃嫁が記載されている。その他で史書に名を留めているものはおよそ五、六十人である。
35. 相見 逢うこと。
36. 稀 まれ。殆ど逢っていないこと。
37. 相憶 思いをつのらせていること。ここでの相は、お互いに、という意味はない。
38. 久 時間的にながいこと。
39. 眉淺 眉の化粧があわい。大切な男の人が、いなくなり、やるせなく、物憂げな感じをいっている。
40. 淡烟如柳 柳のように淡くかすんでいる。柳は韻字でもあり、柳葉は女性の若さ、美しい眉の形容でもある。「柳眉」「柳葉眉」。
41. 垂翠幕 閨房の緑のカーテンをすること。春のことをいう。
42. 結同心 同心結を結うこと。連環回文様式の結び方。また、同心結は、(男女の)ちぎりを結ぶことと。錢唐 蘇小(蘇小小)『西陵歌』「妾乘油壁車,郞乘靑踪馬。何處結同心、西陵松柏下。」(妾(わたくし)は 油壁の車に乘り,郞(あなた)は 靑の馬に 乘る。何處(いづこ)にか 同心を 結ばん、西陵の 松柏の下(もと)。)とみえる。蘇小小『西陵歌』ここでは、タペストリーのように寝牀の垂れ幕の中心にぶら下げ飾るということである。
43. 侍郎 通常官名で、皇帝の側に仕える役で、現代風に言えば次官。「侍郎(きみ)のため」となる。ただし、下片に、美人、宮樹と官職名や宮中関係の語が出てくるので、繋がりから見るとこれも官職名で男は、高級官僚である。焦がれる気持ちを表現している、一夫多妻制の時代で富貴の身分では、簡単に女を捨てた。ただし嫡子を産むと立場は全く異なった。
44. 燻綉衾 うすぎぬの掛け布団に香を焚く。愛しい人の帰りを待った寝床の設え。
45. 城上月 街の上の月。月は、圓く家族団らん(団円)を表し、男の人と共にいたころの回憶。目の前の月の情景から思いを派生させている。城は都市のこと。城市。街が城郭で囲まれていたことからこういう。秋になったことを云う。
46. 蝉鬢 当時の女性の髪型の一。両横の鬢が薄くセミの羽のようになっていることから付いた名称。また、セミの羽のようにつややかで美しい髪の形容。
47. 美人 宮女、芸妓。役職を云う場合もある。
48. 愁絶 哀しみが、際だって大きいこと。絶は、前の字(語)の様子が際だっている時に使われる。愁殺。ここは絶で押韻するため愁絶になった。壮絶、隔絶、卓絶、冠絶の類。
49. 宮樹暗 夜目に、宮中の樹木の生い茂っているさまをいう。月の後半だと西に傾かないので、月の初めのころと考えられる。つまり、本当の別れが来たと思っていないことをあらわしている。月の後半の月20日の月、名残り月を別れの月という。
50. 鵲橋 天の川のこと。カササギが七夕に橋を架けて、牽牛と織女を会わせるという。わが邦では、転じて宮中の階(みはし。きざはし)を謂う(かささぎの渡せる橋に…)。つまりあの人とはまだ切れてはいない。
51. 玉籤 籤は、水時計に浮かべている竹などでできたもので、時間を計る。玉は、美称。
52. 報明 夜明けを告げる。五更の時のこと
更漏子六首其五
(遠く旅立って帰らぬ男を思う女の情を詠う、溫庭筠の港町ブルースというところか。)
53. 【解説】
前段は、川面に映る月を眺めながら男の乗る舟の帰りを待ちわびるさまを描く。古来から月は鏡で人を思う縁であった。折から聞こえて来る角笛の音は、男と夜過ごした時に何時も聞いたものだ。女は自らの咽び泣きの声と重ねる。風に揺れる堤の柳は二人のあの夜の絡み合いを思い起こさせる。中州を覆う霞は男と過ごす時は楽しみの霞であったが、今は、胸を暗く塞ぎ、二列に分かれて渡り行く雁は、男からの文を運んでは来なかった。
後段は、別の街に来ていた溫庭筠は、京口の別れを目にし、残される女に憐れを掛ける。女は、今宵も眠れず、村の鶏が時を告げ、遂に夜明けを迎えてしまったことを言う。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
背江樓,臨海月,城上角聲嗚咽。
堤柳動,島煙昏,兩行征雁分。
京口路,歸帆渡,正是芳菲欲度。
銀燭盡,玉繩低,一聲村落雞。
54. 背 背を向ける。隠す。名詞で背中。背負う。
55. 江樓 大江沿いの高楼に男が帰って來るの待ち侘びる状景。この場合の男は、高官か、舟商人が常套であるし、待つ身の女は妻妾となったものか、「買斷」によって囲われた女ということ、いずれにしても、官妓であったものということであろう。
56. 海月 渡し場の入り江に上る月。
57. 城上 じょうかくのほとりにある塞。この下句の「城上」「角聲」語で官妓ということを連想させる。
58. 角聲 角笛の音が響いてくる。軍営で用いる夜のときをしらせるもの。
59. 嗚咽 むせび泣く。すすり泣く。また、寂しく悲しい笛の音の形容。
60. 堤柳動 柳が芽を吹き葉を茂らせ、風に揺れ動く春から夏をあらわす語である。堤には、官が植えこんだ柳があるが、ここは、襄陽の大堤を想定してみた。李白の「大堤曲」「漢水臨襄陽。花開大堤暖。佳期大堤下。淚向南云滿。春風無復情。吹我夢魂散。 不見眼中人。天長音信斷。」(漢水は 嚢陽に臨(のぞ)み、花開いて 大堤暖かなり。佳期 大堤の下(もと)、涙は南雲に向って満つ。春風 復(また) 情 無く、我が 夢魂(むこん)を吹いて散ず眼中の人を見えず、天 長(とおく)にして 音信 断。)
李白53大堤曲 李白54怨情 李白55贈内
61. 島煙昏 この詩は温庭筠が襄陽にいた時の詩であろう。大堤から見える魚梁洲の事ではなかろうか。春の霞のかかった夕暮れ時のこと。
62. 兩行 二列で飛ぶ雁、時節が秋に変わる。
63. 征雁分 雁が分かれ離れて飛ぶ。「買斷」で囲われた官妓が待ち侘びるその胸の内で高官の男と別れた時の事を連想させる語である。襄陽は漢水と白水の別れの街。
64. 京口 江蘇省丹徒県。南徐州晋陵郡丹徒県京口里。現、鎭江市。北岸の揚州、瓜州と船で結ばれた、旅路のターミナルの都市でもある。ここから長江を離れ徐州長安に向かう運河に入る別れの港町でもある。
65. 歸帆渡 長安に向かう帰り舟の渡し。
66. 芳菲 花や草。ここでは、春の情況をいうのであるが、この街の色町における遊びを意味するもの。
67. 玉繩 二つからなる星の名というが玉衡星は動かないので沈んでいかないし、低くならない。銀の燭台の蝋燭の芯が燃え尽きて低くなる方が分かり易い。
68. 【解説】 寵愛を失った妃嬪の苦しみ、雨降る秋の長夜を独り過ごす妃嬪の思いを詠う。
前段は、まだ十分に若さと美しさを持っている妃嬪の様子を詠う。眉墨の色は薄れ、髪も形を崩さない、ひたすら灯火の光に照らされて物思いにふける。
後段は、夜半、梧桐の葉は、後宮のような場所でないと植えられないもの。夫唱婦随を象徴するもので、雨は高都賦で、契りを結びあうものである。降り注ぐ雨音を聴きながら、あの時の寵愛を思い出し、これから生きていくと心に誓うとういのが、妃嬪の位というものである。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
玉爐香、紅蝋涙。偏照畫堂秋思。
眉翠薄、鬢雲殘。夜長衾枕寒。
梧桐樹。三更雨。不道離情正苦。
一葉葉、一聲聲。空階滴到明。
69. 玉爐香 玉製の香炉から香の薫りが上北ち上る。
70. 紅蝮涙 赤い蝋燭が燃えて蝮を滴らすことを言う。
71. 偏 ひたすら、一途に。
72. 偏照畫堂秋思 偏はひとえに。かたよってそればかりする意。照らしてばかりいる。蟻燭のひかりが画堂をじっと照らしてばかりいる。画堂は彩色されたうつくしい座敷。
73. 眉翠薄 黛がおちて、薄らいできて。
74. 鬢雲殘 鬢の雲型の髪が乱れてきた。
75. 衾枕寒 蒲団や枕辺が寒い、寒々しい。独り寝を暗示している。
76. 屑翠蒔 眉墨の色が薄れる。
77. 贅雲残 贅の毛が乱れる。ここでは 「眉翠蒋」 の句とともに、眠れぬままに纏転反側して粧いのくずれたことを表す。残は損なわれる、さびれる。0余枕 夜具。会は掛けふとん。
78. 梧桐樹 アオギリやキリの木。後宮の天子と皇后・妃嬪夫唱婦随の木の象徴であることをのべることで、一人寝の寂しさを強調する。
79. 三更雨 日没から日の出までの時間を五等分した第三の時刻をいう。十二時から二時ごろまでの真夜半。
80. 不道離情正苦 梧桐に真夜中の雨が降り注ぐことを言い、眠れぬ夜の苦しみを示す。別離の悲しみがこれほど幸いとは思いもかけなかった。・不道 想像もしなかったの意。 いわない。だまっている。・離情 別れる気持ち。・正苦 別れていることはとても辛いことだ。
81. 空階 宮殿の人けのない砌の石階段。
温庭筠 《更漏子六首 【字解集】》